生前贈与が成立しない場合とは(1)/岡崎市の税理士法人アイビスが皆様のお役に立つ情報をお伝えします。


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贈与事実の有無について

一般的には財産は名義人がその真実の所有者であり、外観と実質が一致するのが通常であること及び贈与が通常親族間で行われることが多く、
その事実認定の困難なことを考慮すると、その実質が贈与でないとういう反証が特にない限り、基本的には資金移動=贈与を捉えることができます。

ただし、贈与者に意思能力がないなど、そもそも贈与の要件を充たしてない場合には、贈与事実はなかったという事になります。

意思能力がないものによる贈与

例えば、何年も前から完全な寝たきり状態で、判断能力・意思伝達能力がなかった被相続人の通帳を確認すると複数の親族に資金移動があり、
定期的に相続人が被相続人の代理で生前贈与を行っていた場合、生前贈与は成立しているといえるのか。

意思能力と法律行為

贈与契約をはじめ、不動産売買契約、遺産分割協議、遺言書作成、預貯金の引き出しといった法律行為が有効とされるためには、当事者に意思能力がなければなりません。
民法上、意思能力が欠く者の意思表示は無効となります。

具体的には完全に寝たきり状態であって判断能力・意思伝達能力がない場合や契約時に重度の精神病にかかっていたり、
泥酔状態にあったりするなど、自分のしていることが分からなくなっていたような場合です。

また意思能力がない者に代わって親族が契約することも無権代理行為となり、無効となります。まり意思能力がない者に代わって贈与が行われたとしても、それは無効となります。

贈与登記がされていても贈与がないものとされた事例

夫から贈与により取得した土地建物を売却したことから、贈与税の期限後申告書及び所得税の確定申告書を提出したが、その後当該贈与はなかったとして、それぞれ更生の請求をしたところ、原処分丁がいずれについても更生すべき理由がない旨の通知処分を行った事例です。

平成17年12月、夫から妻(以下:請求人)へ贈与を原因とする土地及び建物の所有権移転登記がなされた。
平成18年6月、請求人は平成17年分の贈与税の期限後申告書を原処分庁に提出した。平成18年2月、請求人は、本件土地等を2050万円で売却する旨の契約を行った。
なお、不動産売買契約書には、請求人(妻)の代理人として請求人の長女が署名押印している。
その後、平成19年3月には、本件土地等を売却したとして、平成18年分の所得税の確定申告書を原処分庁に提出した。
請求人(妻)は、当該贈与はなかったとして、贈与税及び所得税についてそれぞれ更生の請求をした。(その理由は判決文から明らかではない)
請求人は、贈与税の更生の請求の添付書類として夫は平成17年12月の時点で、完全に寝たきり状態にあり、判断能力・意思伝達能力がなかった事を証明する医師の診断書を提出している。

当事者の主張

請求人は、贈与契約の当事者の一方は判断能力及び意思伝達能力がなかったことから、贈与契約がなかったことは明らかであると主張した。

これに対し原処分庁は、請求人が提出した平成17年分の贈与税申告書は、請求人が贈与税の申告が必要であることを自認して提出したものであり、その外形上から一見して過誤を見て取れるものではないこと、本件診断書は、夫の病状の証明であり、請求人の「本件土地等の名義を形式的に請求人に移転した」とする主張を証明するものとは認められないことから、名義及び実質とも本件土地等の所有者は請求人と認められ、贈与税通知処分は適法であると主張した。

裁決が認定した事実

請求人の長女及び三女は審判所に以下のように申述。

・本件土地等の売却について、請求人の了解を得られらものの、所有者である父は意識が回復せず寝たきり状態であったため、意思確認ができなかった。
・本件土地等の売却見積りを依頼した不動産会社の担当者から、本件土地等の所有者である父の意思確認ができないと売却できないこと、父の意思能力に問題があれば、本件土地等の名義を請求人名義(妻)にして売却することとし、その内容は請求人にも話をした。

本件診断書を作成した医師は

・平成17年3月に初めて診療したが、その時から寝たきりで、痰の吸引器及び酸素吸入器の装着が欠かせず、会話も家族との意思確認もできない状態であった。
その状態は、死亡するまで続き意識や判断能力が戻ることはなかった。

介護を担当していた看護師

平成15年当時は、呼びかけに応答する時もあったが、呼びかけの内容については認識がない状態で、子どもたちが来所しても、それが誰であるかの認識もできず、その状態は回復することはなく死亡した。

判断

審判所は医師の診断書、介護職員の申述などから判断すれば、土地建物が贈与された時点において贈与者は意思能力がなかったと認められ、
加えてその後死亡するまでの間、その意識が回復し、追認した証拠も認められないことから、
贈与登記は、土地建物を売却するために行われた贈与意思のない形式的なものにすぎず、贈与はなかったと判断しています。

請求人夫婦の入居費用等を調達する必要があり、そのためには本件土地を売却する必要があったところ、意思能力がない夫名義での売却はできず、
請求人名義に登記を変更すれば売却できるとの不動産業者の話を聞いた長女及び三女が、成年後見人制度を利用することなく、
安易に贈与登記により、本件土地等の名義を請求人名義に変更したうえで、本件売却を行ったにすぎないと認められる。

そうすると、平成17年12月の贈与を原因とした夫から請求人への所有権移転登記は、本件土地等を売却するために行われた贈与意思のない形式的なものにすぎない。
本件土地等の請求人への贈与はなかったと判断するのが相当であると判断されました。


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